僕に英才教育を受けさせるよう小学校の教師に勧められたとき、両親は喜ぶより困惑した。
ヤマト夫妻が僕の生物学的な親だったなら話は別だったかもしれない、でもそうでない彼らに僕が似ていないことを強調するのは酷というものだ。お互いを家族に迎えて幸せになりかけていたのに、なぜ皆んな僕たちを放っておいてくれなかったんだろう?
僕はふたりを不安がらせたくなかったし、勉強ばかりして友達と遊べなくなるのも嫌だったので、普通に公立の学校へ通い続けた。
中学生になって友達とバンドを始めた。両親は僕がプログラミングよりもギターにのめり込むのを見て安心したようだった。ディセンベルでは、子どもがロックミュージシャンに憧れるのは、サッカーに夢中になるくらい普通のことなのだ。
そんなわけだから、僕には音楽で食べていく覚悟なんてさらさらなく、1学年上のイザークに声をかけられたときも、最初は断る気満々だった。
何せイザークは校内一の問題生徒で、教師を精神的に追い詰めて病院送りにしたとか、夜中の学校に侵入して教室をめちゃくちゃにしたとか、悪い噂が絶えなかったのだ。
……にもかかわらず、平和主義の僕がもっとも関わり合いを避けるべき男となぜ未だに共同戦線を張っているかというと、お互いの才能だけは認めざるを得ないからだった。
だけどそれも近ごろ限界に近づきつつある。
「そしたらイザークのやつ、何て言ったと思う?『その服は着る人間を選ぶからやめとけ』だよ! 僕の童顔を遠回しにバカにしてさー、ああいう態度だからネットに『ブスに人権はないと思ってそう』とか『Lacusを自分好みに整形させた』とか書かれるんだよ。しかも前者はあながちハズレじゃないっていうね!」
「俺は大学に行きたいんだけど、おまえいつ帰るの」
僕をベッドに座らせ、アスランはグランドピアノの椅子に腰掛けていた。ティーカップ片手に、さっきからしきりに腕時計を気にしている。
「僕やスタッフは最早イザークの兵隊アリだって話をしてるんだよ。それもこれも、デビュー目前にきみが逃亡してイザークが独裁者に逆戻りしたせいなのに、この期に及んで僕より木星探査ロボットのほうが大事なわけ?」
「何を言ってもクスリをやる言い訳にはならないぞ。おまえが依存症になったのは俺のせいでもイザークのせいでもない」
さっきまで僕を吊し上げていたのとは別人のように涼しい顔でアスランは言った。(ポケットに御守りがわりに持っていたひと包みはトイレに流されてしまった。)
「もー、だからハマるほどやってないってば、疑り深いなぁホント。僕なんかイザークよりよっぽど健康的だよ、アイツ最近またタバコの本数増えてるし、ろくに寝てないみたいだし……誰かさんが帰って来てから」
アスランはしれっと話を戻した。「イザークは言うほど面食いじゃないし外見だけで人を評価するような奴でもないだろ」
「前に『アスランのどこが好きなの』ってアイツに訊いたら『顔』って即答したけど」
本人は照れ隠しで言ったに決まっているが、ついふたりの仲を邪魔したくなるのが僕のサガだ。
「そりゃあ人並みに好き嫌いはあるだろうし、俺の顔が半分焼けただれていてもイザークが俺と付き合ったかどうかはわからないが」
「…顔を隠して日陰で生きる元美人っていうのもグッとくるよね」
アスランは僕の性的嗜好なんか知ったこっちゃないというふうに続けた。「イザークが人の容姿に関してちょっと辛辣になるのは、自分があの外見でずっと苦労してきたからだよ。生まれてこのかた見た目ばかりもてはやされて、アイツがいちばんうんざりしてるんじゃないか? その反動というか、周りがいつも無意識にアイツにやっていることを意図的にやり返しているだけで…」
「……ふーん。相変わらずイザークのことはよくわかるんだね」
「おまえの考えてることは昔からさっぱりわからないけどな」
「えー? 僕はただ欲望に忠実なんだよ。きみと違って聞き分けないから相手のためを思って身を引いたりしないし、欲しいものは全部手に入れたいだけ」
「とにかく、体は大事にしろよ。俺と違っておまえは協調性があって普通がどうとか気にするぶん、人一倍疲れるだろ」
「まぁ…きみよりは社交的で常識もあるけどね」
非凡とか次元が違うとか言われがちな者同士、気楽なのは確かだ。
何やかんやで、僕はアスランと一緒にいるときがいちばん自分らしくいられる気がする。
「ねぇ、今晩泊めてよ」
「ええ?」
「今日はもう予定が無いんだけどさ、最近どこに行っても動画撮られるから、部屋にこもってゲームするしかないんだ。部屋って言ってもホテルだし、いまいち落ち着かなくて」
本当は僕の気が散っていたせいでイザークに目障りだから打ち合わせに来るなと言われたのだが、自分に都合の悪いことは黙っておく。
「ホテルって……自宅はそんなに遠いのか?」
「いや、都心部だけど、2ヶ月は帰ってないかなぁ。マンションの前まで押しかけるファンやらパパラッチやらで、近所からクレームが来ちゃって。何度引っ越してもダメなんだよね」
「酷いな。じゃあメンバー全員ホテル住まいなのか」
アスランはちょっと心配そうに訊いた。
「ミーアと僕だけ。イザークとシホはメディアの露出も少ないし、ほら、その辺はうまくやるでしょ、あのふたりは」
喋りながら、そういえばイザークがベイサイドのアパートを引き払っていない件に思い当たったが、いま持ち出していい話題なのかどうか。
(ってか、そもそも別れてなかったとか?)
昔からアスランとイザークのあいだのことは僕にはよくわからない。
ただでさえアスランは自分の交流関係を語らなかったし、身の上に制約が多すぎて、友達に何でも打ち明けてくれるという感じじゃなかった。
高1のころ彼は僕を介して知り合った女の子の何人かと付き合っていたけど(たぶん)、どれもカジュアルな関係で、いつの間にか終わっていた。
イザークの告白にOKしたときも、アスランが実のところ何を考えているのか、僕には全然わからなかった。(内心、本当はやっぱりミゲルとデキてるんじゃないかと疑ってすらいた。)
だからこそ、アスランが高校を卒業してもイザークと別れないで一緒にセントラルに来たのはかなり意外で、ちょっと嬉しくもあったのに。
結局僕もイザークも裏切られて、だけどこうして会ってみると、アスランは何も変わっていなくて。
「おまえ、マスコミの尾行がついてるのを承知でフレイと会うつもりだったのか?」
「彼らはフレイがサイ以外の男に笑いかけるたびに二股疑惑で騒いでるよ」
少し食欲も出てきて、自家製のバナナケーキを頬張りつつ僕は答えた。「発想が幼稚園児の連中にいちいち遠慮していられない。…まぁきみが彼女を匿ってるなら、とりあえず安全だろうから今日のところは引き下がるけどさ。お父さんを亡くして結婚が延期になって、いちばん辛いのは彼女なのに、何でこれ以上赤の他人に苦しめられなきゃいけないのかな。訴えるべきだよ、こんなの」
「相手にしないのがいちばんだと思うが。それに、フレイは叩かれるほど燃えるタイプだろ」
「そうかもしれないけど、やっぱり知らない相手だろうが悪意を向けられたら悲しいし、男の僕だってちょっと怖いよ。実際ファンにしつこくストーキングされたり、挙げ句殺された芸能人だっているんだから」
「そうだな」
アスランは少し考え直したように頷いた。「おまえの言うとおりだ。大公一家は何を考えてるんだか。仮にもプリンスの婚約者にボディーガードもつけないで」
「僕はむしろ彼らが彼女を自殺にでも見せかけて暗殺するんじゃないかと気が気じゃないよ。いっそこの縁談は無かったことにするのが誰にとってもいちばんいいんだ」
「フレイはプリンセスになることを諦められていないんじゃないか?」
「僕が説得する」
「……キラ。フレイは散々おまえの優しさに甘えておきながら他の男と婚約したんだぞ」
「お父さんの命令でね」
「その父親が死んで、後ろ盾をなくした心細さとマリッジブルーが重なってまた現実逃避してるだけだ。彼女の悪い癖だよ、自分が困ってるのを知ったら必ずおまえが助けに来ると思ってる。これ以上関わらないほうがお互いのためじゃないのか?」
「口を出すなんてきみらしくないな。高校のときは僕たちのことを応援してくれてたのに」
「おまえたちが勝手に俺をメッセンジャーに使ってただけだ。イザークにも俺が焚き付けたように言われたけど、俺は最初にちゃんと忠告したぞ、『おまえの手に負える相手じゃない』って」
「そうだった。きみって、そういうとこがあるよね」
いつも少し引いた立ち位置から見ているから、実は色んなことに気づいてるくせに、結局他人の問題だから放っておくのだ、彼は。
「ミーアだって……きみはミーアがLacusの名前を使うのを良く思ってなかっただろ。お姉さんを知るきみの言うことならミーアも聞き入れたかもしれないのに、きみは黙って彼女がラクスさんの生きるはずだった人生を『再現』しようとするのを見てたんだ」
「……ミーアがどうかしたのか?」
「いや、うちのお姫様がどうかしてるのは元々なんだけどね。何かもう最近、痛々しくって見てられないってゆーか」
「……」
アスランは何やら難しい顔で宙を睨んだ。
(へえ……やっぱり心配なんだ、ミーアのこと)
アスランは僕と違って、言うなれば天才の純粋培養だ。ちょっと普通じゃない家に生まれて、周りと比べられることもなく、学校なんか無理に行かなくても好きなことだけを幾らでも学べる環境で育った。
たぶん、彼には他に考えることが多すぎて、日常の物事にいちいち心を動かされている余裕が無いんだと思う。
正直僕はハイスクール時代、アスランはミーアの存在をたいして気に懸けていないんだと思っていた。だけど僕の目に映っていたより、実態はもう少し複雑だったようだ。
「ねぇアスラン。きみはミーアの出生の秘密を知ってたんでしょ。彼女が病気のお姉さんのドナーになるために、体外受精で生まれた『救世主きょうだい』だったこと」
「……」
当たりだ。アスランの微妙な表情の変化を見逃さず、僕は確信する。
「本人がフレイに言ったらしいんだ、自分のことを『出来損ないの救世主』って。たまたま読んだSF漫画がそういう話で、ピンと来たんだよね。その未来世界では自分のクローンを何体も冷凍保存しといて、本体が事故に遭ったり病気にかかると、クラウドから記憶を同期して体を乗り換えるんだ。面白いのは、何かの手違いでひとつの体にふたりぶんの記憶が同期されちゃって…」
「キラ、脱線してる」
アスランは気難しく口を挟んだ。「それにミーアはクローンでもデザイナーベビーでもない。彼女の両親は、単にラクスに適合する受精卵を選んだだけだ」
「でも、国内じゃ違法だよ。幾ら子どものためだって、体を傷つける前提で『スペア』を作るなんて、不老不死のためにクローンを作るのと生命倫理的には大差ないと思うな」
「少なくとも、ミーアは何も悪くないだろ」
「ミーアはお姉さんが死んだのは自分のせいだと思ってるんじゃないの? だから自己肯定感が異常に低いし、Lacusになりきることに執着してる」
「……何でそう思うんだ?」
万事を合理的に考えるアスランには理解しがたいロジックである。
「えーと、つまりね。お姉さんを救うことが至上目的だったとしたら、ミーアはそれに失敗したわけでしょ。お母さんはラクスさんの死から立ち直れず海外に移住して、お父さんもミーアを残して自殺した。ラクスさんが死んだら『ミーア』はもう要らなくなった。みんなが必要としていたのはラクスであってミーアじゃなかった__あくまでも彼女がどう感じてるかって話だよ」
「……イザークはラクスと面識がない。アイツの前でミーアが故人を演じる必要はないだろ」
「うん。でも子どもの頃はともかく、いまイザークが彼女の側にいるのはバンドのためでしょ。ミーアが歌姫としての_理想像であるLacusとしての自分にしか存在価値を見出せないのは無理ないと思うけど」
この2年間、ミーアはずっと崖っぷちだ。皮肉なことにそれが彼女の歌をより魅力的にしている。
「いちおう訊くけど、きみは初恋の人を助けられなかったミーアを恨んでないんだね?」
「まさか」
アスランは困惑顔で答えた。「むしろ、不遇な子ども時代を送ったぶん彼女には人一倍幸せになって欲しいよ」
「きみが言うかな、それを。彼女からイザークを取っちゃった張本人のくせに」
「イザークにだって好きな相手を選ぶ権利はあるだろ。アイツが彼女の想いに答えられる可能性はゼロだったんだから、それはしょうがないじゃないか」
「主観が入ってないって言い切れる? そもそも男と女のことなんだから、ゼロではないでしょ。僕は常々思ってたよ、いっそイザークが折れて一度くらいミーアを抱いてあげれば、彼女も気が済んでブラコンを卒業できたかもしれない。そしたらこんなに拗れなかったのにさ」
「畜生道って知ってるか、キラ」
アスランの言葉はいささか場違いに響いた。
「……近親相姦のこと? いや、だってあのふたり、本当のきょうだいじゃないし」
「でも、本当の親きょうだいと性交したって雷に打たれるわけでもツノと尻尾が生えてくるわけでもないだろ。イザークがどういう意味を持たせるのか、問題はそこだけだ。たぶん、こればかりは自分でもどうにもならないことなんだよ」
僕はアスランの言ったことについてしばらく考えを整理した。
「それってイザークのお父さんが姪を愛人にしてたことと関係ある?」
「部分的には」
とアスランは認めた。「義理の姪なんだけどな。ディアヌ・ジュールは伯爵夫人の_イザークの母上の、亡くなった兄上の娘だから」
「え? てっきりお父さんの方の親戚筋だとばかり。だってイザークのお母さんは一人娘だから婿を取ったんでしょ」
「正確には、歳の離れた兄上がいたが、先代の伯爵が存命の内に亡くなったんだ。……知らなかったのか、キラ」
知らないよ、と僕は内心憤慨する。「だって僕には上流階級の横の繋がりなんて無いし、ミーアもフレイも肝心なことをぼかして話すし、噂をつぎはぎして想像してただけだもん。待ってよ、じゃあ愛人って、イザークの母方の従姉なの?」
「そうだよ」
この際正しく事情を知っていたほうがいいと判断したのか、アスランはさらりとした口調で語った。「イザークより4つ年上で、15歳のとき身寄りをなくして伯爵一家に引き取られたんだが、半年も経たないうちに伯爵の愛人に収まった」
「それは……イザークがグレたのもちょっとわかるな」
「それだけじゃなかった。ディアヌは_ジュール家特有の銀髪碧眼の美人なんだが_どうもイザークに気があったらしい」
「へ?」
「たぶんそれがイザークが家を出たいちばん大きな理由だ。一度、彼女がイザークを訪ねて来たけど、かなり険悪な感じだったな」
「……何それ、まさかイザークもその従姉と寝てたってこと?」
中学時代のイザークの闇の深さを考えれば、充分あり得る話だ。
「さあ……実際どういう関係なのかは、訊かなかったから俺は知らないが」
「訊こうよソコは! 無関心にも程があるよ!」
アスランは僕の剣幕に戸惑って目を瞬かせた。「いや、気にはなったけど。彼女が帰ったあとのイザークの機嫌が底辺で、迂闊なことは言えなかったし、よっぽど触れられたくないんだと…。だけど、アイツの女遊びは誰かに対する当てつけだったような気がしてたから、その相手があの従姉だと考えると納得がいくんだ」
「…あー、イザークって粘着質だもんね」
「と言うか、潔癖だから、従姉に少しでも欲情した自分を許せなかったんだろうな。他の女性と付き合っても従姉の面影を払拭できなかったから俺と寝てただけで、アイツは根っからの同性愛者じゃなかった。__ミーアのことにしても、本当の身内以上に大事にすることがディアヌへの強い意思表示だったんじゃないか?」
「意思表示…?」
アスランは冷ややかな微笑を浮かべた。
「『おまえなんか死んでも愛さない』__っていう」
「……」
「まぁ、ディアヌもあれ以来俺とイザークの前に現れなかったから、ザラの人間を敵に回してもイザークが欲しいと思うほど本気じゃなかったってことだろ」
アスランはその従姉を歯牙にもかけないのだろう。
イザークが彼より彼女を選ぶなんて考えもしないのか、そうなったらそうなったで構わないと思っているのか。
(地元の仲間は皆んなミゲルを怖がってたけど、きみのほうがずっと怖いよ、僕は)
ぐうぅ、と僕の腹の虫が大きく鳴いた。
僕のバツの悪い顔を見たアスランは「あはっ」と声を立てて笑った。
「そのバナナケーキ、全部食べていいぞ。俺は要らないし」
「うう…ありがとう。考えたら僕、昼ご飯食べてなかったよ」
「なら、下に行ってレイに何か作らせるか。ちょうどお茶の時間だし」
アスランがティーセットの乗ったトレイを持って、僕がドアを開ける。
「そういえば大学は?」
「おまえを残して出かけられないだろ」
「僕が会いに来て嬉しいくせに、素直じゃないな」
アスランは階段を降りながら、やたら大きなため息をつく。「……おまえのせいで予定がめちゃくちゃだよ」
相変わらず小言は多いけどアスランは結局僕に甘い。
もし今、僕が彼を後ろから突き落としたら、彼はもちろん激怒するだろうけど、そのことで明日から僕への態度が変わったりはしないだろうという確信がある。
「…むしろ僕が転げ落ちたほうがきみにはダメージ大きいか」
アスランを本気で怒らせたいなら、ターゲットにすべきは本人でなくその周りのごく近しい人間だ。
例えばミゲル。イザーク。__それに、ミーア。
「何か言った?」
アスランは階段の途中でこっちを見上げていた。
(あれ…いま何か引っかかったような)
今の今まで、僕はアスランが2年前に結局本来の進路を選んだのだと思っていた。集団訴訟騒ぎやミーアのお父さんのことはきっかけに過ぎなくて、彼は最初からバンドを抜けるタイミングをはかっていたんじゃないかって。
……でも、そうじゃなかったとしたら?
「キラ?」
「あ、ううん、別に」
そう、例えば、アスランがイザークと同じくらいミーアのことも大事に思っていたという前提で、最初から考え直す必要があるのかもしれない。
「ねぇ、そういえばきみのギターは? 部屋に見当たらなかったけど。久しぶりにちょっと弾かせてよ」
「ああ……マイウスに行くとき、うっかりベイサイドのアパートに忘れてきたんだ」
「忘れてきたって…わざわざ整備工場でアルバイトして買ったお気に入りでしょ?」
「そうなんだよ」
アスランは苦笑した。「馬鹿だよな。他にもすごく大事なものを置いて出てきてしまってさ。取りに来いと言われてるんだけど、なかなか」
「え? …イザークに?」
「あ…いや、直接聞いたわけじゃなくて……ミゲルにアイツがそう言ったって」
「何だー、僕に内緒で連絡取ってるのかと思って焦ったよ」
「ツアーが終わったらメールしようとは考えてたけど、アイツまだ怒ってるみたいだから嫌なんだよな」
「いや、僕も怒ってるけどね。時効だと思ってるんなら蹴り落とすよ?」
「キラの好きにすれば。落ちて怪我したらコンサートに行かない口実ができるし」
アスランはあっさり僕に背を向け、数歩階段を降りたところで、思い出したように言った。「ギターならシンに借りられると思うぞ。俺の部屋の隣だ。ついでに下でお茶にしようって言って来てくれるか?」