最初に彼女を見かけたのは中3のとき、場所は街の古い映画館だった。
今どき、動画も音楽もサブスクで幾らでも楽しめるし、最新のVRゲームなら家にいながら迫力ある映像や臨場感が味わえる。それでも僕はたまにそのこぢんまりした、自動ドアもタッチパネルも無い、煙草やポップコーンのにおいの染みついた映画館に通っていた。
僕は小さい頃から注意散漫で、家にいると誘惑に負けて一度にあれこれ手を出してしまう。ゲームしながら漫画を読みつつTVでサッカーの試合を観て1分ごとにSNSをチェックしたり。
だから、わざわざ映画館に出かけ、がらがらの客席でチョコレートバーをかじりつつ、平均2時間弱の映画をじっくり鑑賞するというのは贅沢な時間の使い方だった。
僕はその夜も練習をサボってひとりでそこに来ていた。イザークには近代史のレポートが終わらないと嘘をついた。__今週でテリー・ギリアムの3本立て上映会が終わってしまうってときに、律儀に部活に出ている場合じゃないでしょ。
1本目の『バンデットQ』が終わって小腹が空いたので、売店で軽食を注文して待っていたら、同じ年頃の女の子たちが3人やって来て、次々とアイスクリームを頼んだ。
「えー、うそ! あの手紙のS.A.って、ジュリアス校のサイ・アーガイルなの?」
「正真正銘のプリンスよ。フレイったら私にもなかなか教えてくれないんだから。問い詰めたらやっと白状したの」
「何それ、玉の輿? すごいじゃないフレイ、何で言ってくれなかったのよー」
普段なら恋バナで盛り上がっている女の子たちの話に聞き耳を立てたりしない。でも場所が場所なだけに気になった。
服装や話し方からして、近くのお嬢様学校の生徒だろう。別にお嬢様がカルト映画好きでもいいと思うけど、彼女たちはそういうタイプとはむしろ正反対に見えた。
「違うんだってば」
と、いちばん目立っている子が困ったように答える。「彼とはまだ正式にお付き合いしてるわけじゃないの。親同士でそういう話が出てるってだけ。だから内緒よ、絶対」
そのとき僕のホットドッグとドリンクが来たので、受け取ってその場を離れた。
2本目の『未来世紀ブラジル』はこれまで何度も観ている作品だった。
例の女の子たちは後ろの隅の方に座っていた。僕はスクリーンに目を向けたまま、フレイと呼ばれていた子のことを考えた。
(高嶺の花って、ああいう子のことを言うんだよね)
序盤でホットドッグを食べ終えたあと、ほんの束の間、うとうとしていたらしい。
僕は雲の上を飛んでいく夢を見た。絹のとばりの向こうから僕に微笑みかけたのはさっきの赤い髪の女の子だった。ヴェール越しに彼女にキスしたところで目が覚めた。
***
「フレイ? ああ、フレイ・アルスターだろ。セント・アグネス校の中等部2年の、すげー可愛いくてスタイルいい子。けっこう有名だぜ?」
授業前の教室でリッキーに訊いてみたら、彼女の素性はすぐにわかった。(彼はその頃僕らのバンドのドラム担当で、確かそのあと1ヶ月もしないうちにイザークと大喧嘩して辞めていった。)
「去年テニスの全国大会で上位入賞したとき、写真が出回ってさ。ユニフォーム姿がめっちゃエロいの。おまえにも送ってやるよ」
「い、要らない…」
「またまたぁ」
リッキーは勝手に僕の携帯に何枚か写真を送りつけ、自分の画面を見てしみじみ言った。「可愛いよなぁ、ミーアに負けず劣らず巨乳だし。なに、デートに誘うの?」
「まさか。あり得ないよ。どうせジュリアス校に彼氏がいるだろうし」
「だよなー、セント・アグネスのお嬢さまはエリートのお坊ちゃんにしか興味ねぇからな。……あれ、でもおまえも4月からジュリアスに編入するんだっけ。もしかすると、フレイとワンチャンあるんじゃね?」
死ぬまで学歴が物を言うこの国で社会的地位の高い職業に就くには、インデペンデント・スクールと呼ばれる中高一貫校を経て一流大学を卒業するのが普通だ。ただし、そういう私立校は入学基準が厳しい上に学費がバカ高く、奨学金が出ている一部生徒を除けば、富裕層の子どもしか通えない。
ディセンベル市のジュリアス校はそんな名門私立の全国トップクラスの男子校で、僕は数学教師の推薦を受けて、春からそちらに通うことになっていた。
「ないない。向こうはセレブで学園の女王様だよ。孤児院育ちで奨学金もらってる生徒なんて視界にも入んないって」
「……おまえ、そんなんでホントに上手くやれんのかよ。向こうの学校に知り合いもいないんだろ」
「うん、大丈夫じゃない? イザークは、あっちの校風のほうが僕には合うだろうってさ」
「ってか、そのイザークこそ当然ジュリアスに通うはずだったんだろ。余裕の入学許可を蹴ってわざわざ公立に入るって、すげー嫌味なヤツ」
「んー、ミーアが言うには何か色々大変みたいだけどね、イザークん家も」
「ミーアはアイツに惚れてるから甘いんだろ。…いつもアイツのこと心配して庇って、母親かよ」
リッキーは不貞腐れて言った。
前から僕は、彼がミーア目当てでバンドに入ったことに気づいていた。
我が校の男が一度は通る道だ。ミーアは学園のアイドルで、可愛い上に性格がいいから、皆んな彼女を好きになってしまう。ところがミーアには高スペックすぎる幼馴染の男がいて、彼女が彼を見る目が全てを物語り、ふたりが並んだ画が余りにも完璧なので、名もない男子生徒の恋心はぺしゃんこに潰されるというわけだ。
勝手に失恋した彼らがイザークに反感を持つのは仕方がないことで、リッキーがあんまりイザークのことをよく思ってないのも、ミーアのことが大きいような気がした。
__まぁ、それはイザークが対処すべき問題で、僕の知ったことじゃない。
僕は奨学金を一度は辞退した。数学のカトウ先生は校長室に僕を呼び出し、これがどんなに有難い話なのか、僕が如何に幸運な生徒で、あちらの学校には如何に個々の才能を伸ばす環境が整っているかを、僕にわからせようとした。
『でも僕は大学に行くつもりはないんです』
『それは関係ない。奨学制度の基準は満たしているし、あちらはきみのように非凡な才能を持つ生徒を欲しがってるんだ。学費は全額免除のうえ、給食費や教科書代も支給される。親御さんの負担を心配する必要はないんだよ。もちろんご家族には私から説明しよう』
カトウ先生や校長は、僕が養子だから、育ての親に遠慮していると思ったようだ。
それは全くハズレでもなかったけど、僕がためらっていた本当の理由は他にあった。
『まぁ、おまえの性格には合ってるかもな』
意外にもイザークは、教師たちの意見に賛成した。『あそこは比較的のんびりした校風だが、礼儀作法はきっちり教えてるし。大学に行く気が無くても、一流の教育に触れておいて損は無いぞ』
『自分は入学を断ったくせに』
『ああいう学校は親が卒業生だとほぼ合格なんだ。あの男のコネで入学などしてたまるか』
イザークは涼しい顔で言った。『それにおまえ、去年ラテン語と美術史の進級テストで落第しかけただろ。うちの学校は満遍なく成績が取れないと進級を認めないからな、このまま高等部に上がれたとしてもドロップアウトする可能性が高い』
『……きみってホント、ひとこと多いって言うか……いちいち言葉で人を奈落に突き落とすよね』
『俺は事実を述べて助言しているつもりだが? おまえがミーアと同時に卒業できなかったらギタリストは向こうで探すからな』
別にイザークのアドバイス(というか脅し)が決め手となったわけじゃないが、結局僕はジュリアス校に編入した。
最初こそ、歴史の重みを感じる校舎に圧倒されたり、独特の規則や言葉遣いを奇妙に感じたりして、戸惑うことも多かったが、案外すんなり溶け込めたと思う。
大抵のクラスメイトは気さくで、想像したほど『よそ者』に冷淡じゃなかった。パンクが好きな連中とは話が弾んだし、数学パズルやSFの同好会からも誘いを受けた。1週間もすると、僕が奨学金を貰っていることなど誰も気にしなくなった。
__もっとも、同じ学年に編入したアスラン・ザラに比べれば、僕の規格外なんてたいして問題にならなかったんだろう。
***
「キラはどうして大学に行かないんだ?」
「んー、大学でやりたいことがないから?」
「……そんなにミュージシャンになりたいのか?」
僕はレポート用紙から顔を上げた。いつからそうしていたのか隣に座るアスランは肩がくっつくほど近くから僕の顔を覗き込んでいた。
一瞬(顔の角度的に)キスされるのかと思ったけど、僕はすぐに冷静になった。距離感が変なのはここが学校の図書室で、私語厳禁だからだ。
「そういうわけでもなかったけど、今はそれもいいかなって思ってるよ」
(焦った……今のはちょっとヤバかったぞ)
友達になれたのはいいが、ときどき僕はアスランを妙に意識してしまう。いくら中性的できれいな顔だからって、唇にキスしたいと思うなんてマズい。
「音楽は研究をやりながらでもできるだろ?」
「できるよ」
僕は手元に注意を戻す。レポート用紙には大きなインク溜まりができていた。「あーもう、失敗したじゃん。アスランのせいだよ」
中高1年生は何故かボールペンの使用を禁じられている。この学校の七不思議のひとつだ。僕はこの歳まで万年筆なんか見たことも触ったこともなかった。
アスランは携帯の着信を確認しながら言った。「キラはそうやってすぐ人のせいにする」
「だって書きにくいんだもん。……ミゲル、もう来るって?」
「うん。10分したら行くよ」
ミゲルは市内の別の高校に通っていて、ときどきアスランを校門まで迎えに来る。派手なオレンジ色のスポーツカーで送迎場所に乗りつけ、たいてい助手席に美女を連れて。
僕はてっきりミゲルに印象が悪いと思っていたけど(初めのうちアスランは僕が付きまとうのを嫌がってたので)、ミゲルはたった半月でアスランを根負けさせた僕にむしろ感心したらしい。ジュリアス校の生徒はよく街の不良に絡まれるが、この界隈でいちばん気の荒い連中でさえ近ごろ僕に親切だった。
僕という唯一の例外を除けばアスランは相変わらず学校内の人付き合いに消極的で、入学から1ヶ月以上経っても部活にも参加しないし、秘密クラブ(選ばれた生徒だけが属する会員制クラブ)の勧誘もことごとく断っていた。
ミゲルはアスランに普通の学校生活を送らせたがっていて、アスランはいつもそれが少し鬱陶しそうだ。
僕は書き損じたところを何とか誤魔化そうとしながら言った。「あのさ、普通の人にできないことができるからって、やらなきゃいけないってことにはならないでしょ」
「……そう?」
「きみや僕のような子どもを見つけると、大人は寄ってたかってあれこれやらせようとするよね。『おまえは天才だ』って言い聞かせて、自分には努力してもできないことを、やればできるって理由で押しつけるんだ。__できるけどやらないっていう選択も本人の自由でしょ、それをズルいとか勿体ないとか言われても」
「……おまえの言うことも正しいが」
「言ってるだろ、アスランは何でもかんでも深刻に考えすぎなの」
そう、要は楽しければいいのだ。
せっかくミゲルの信頼を得ているのに、彼の命より大事なものに軽い気持ちで手なんか出したらタダでは済まなくなる。ふたりがデキているという噂が本当なら、僕の学校生活はそこで終わったも同然だ。
僕はセックスするならやっぱり女の子とがいいし、別にアスランと恋人になりたいわけじゃない。
アスランが恋愛至上主義で常に恋人を優先するタイプだったら、また話は変わっていただろう。でも僕の親友は恋愛脳どころか、ひとりの時間が確保できないとストレスで死んでしまいそうだ。
「人ひとりの命なんて短過ぎて絶望しないか?」
と、彼は難しい顔で言った。「ざっと計算してみたんだ。俺の頭の中にあることを全部アウトプットするには、睡眠を1日4時間にして90まで生きたって 寿命があと770年と8カ月足りないことがわかった」
「不死身になっても860歳まで働くのは嫌だなー。それ、全部きみがやらなきゃダメなの?」
「できるから、自分でやりたいんだよ」
「アスランのそーゆーとこ、ほんとイザークと気が合いそう。今度アイツと話してみてよ。きみがうちのバンドに入ってくれたらミーアも喜ぶし。__ね、やってみない? 絶対楽しいし、いい息抜きになるって」
僕の口説き文句がすでに耳タコのアスランは、教科書に目を落としたまま答えた。「そんなに俺と一緒にいたいんなら素直にそう言えば」
「言ったら承知してくれる?」
「………息抜きね。考えとく」
__もしも。
僕はときどき思う。
もしもアスランが僕の恋人だったら、僕は彼をずっと独り占めしておきたくて、気が変になっちゃうだろうなって。
「ねぇ、ミーアのお姉さんも歌がうまかったんでしょ。やっぱりミーアとよく似た人だったの?」
「いや。声はそっくりだと思うけど」
「そうなんだ……ミーアが聞いたらガッカリするだろうな。彼女、亡くなったお姉さんみたいになりたいって、すごく頑張ってるから。__きれいで優しくて、重い病気だったのに勇敢だったって」
「どんなに頑張ってもミーアはラクスにはなれないよ。早く忘れて前に進むべきなんだ」
「……その言い方はちょっと冷たくない? そりゃあきみにとって、ラクスさんは掛け替えのないひとなんだろうけど…」
「そういうことじゃなくて、彼女は普通とは言えなかったから_」
「…それって、どう言う…」
アスランは我に返ったように口もとに手をやった。「いや、何でもない。こんなところでする話じゃなかった」
「__へぇ、そう」
僕は頭にキて荷物をまとめ、黙って席を立った。
校舎から中庭に出たところでアスランが追いついて来て、僕の腕を取る。
「キラ、怒ってるのか?」
「図書室じゃできない話だって言うから場所を変えたんだけど」
アスランは一瞬、言葉に詰まった。「……学校でその話は、ちょっと…」
「結局、場所じゃなくて僕なんだろ」
一度くらい、僕に冷たくされておろおろして見せればいい。
「もういいよ、わかったから。どうせ僕なんか、きみの物語では学校の中だけに存在するモラトリアムの象徴に過ぎなくて、卒業したら二度と出てこないモブキャラです。じゃあまた、明日『学校』で」
「待てってば」
おろおろはしなかったけど、アスランは珍しく強引に僕を引き留めた。「…悪かったよ、昨日おまえの誕生日をすっぽかしたこと。それで何か今日ずっと機嫌が悪いんだろ」
「いや、別にもう怒ってないよ?『どうしても外せない用事』って、ニコル・アマルフィのコンサートに招待されてたなら初めからそう言えばいいのに。ホントきみは秘密主義っていうかさ」
アスランは戸惑ったように瞬いた。「……おまえも誘おうかと思ったけど、夜はいつもの仲間で集まるって言ってたから」
「何言ってるの、そんなの普通にブッチするよ。だって、あのニコルだよ? 特等席で生演奏が聴けるなんて最高じゃないか」
「……やっぱり誘えばよかったな」
「ってか、デートだったんでしょ。僕がいても邪魔だったろうし」
「……デート…?」
「モデルのフレイと」
僕はスマホの画面を彼に向けた。「SNSで拡散されまくってるよ。今朝からみんな噂してて、僕まで視線が痛いんだけど」
アスランはふたりが写っている画像を見て眉をひそめた。「噂って?」
「フレイが3年のサイを振って、きみと付き合ってるって」
サイ・アーガイルは我が校を代表する最も優秀で模範的な生徒だ。人柄も家柄も申し分なく、フレイと交際を始めたのは約半年前。ちなみにフレイはそのとき2ヶ月付き合った他校の演劇部のOBと破局したばかりで、その前はテニスの個人コーチと噂があった。
恋多きイットガールの次のターゲットは、北部最大の権力者であるザラ家の御曹司ってことらしい。
「デートじゃないし、付き合ってもいない」
当の御曹司は不機嫌に言った。「会場の前で偶然会って…フレイが連れと喧嘩してひとりで来たって言うからボックス席に誘ったんだよ。彼女とは子どもの頃からの顔見知りだし、困ってるのを放っておけないだろ」
僕は改めて写真を眺める。フレイは体にぴったりした金色のイブニングドレスを着て、とても大人っぽくて綺麗だった。
「お似合いのカップルだと思うけどな。嬉しそうに腕なんか組んじゃってさ、案外フレイは本気でサイからきみに乗り換えるつもりかもしれないよ」
「まさか。昔から彼女は俺を都合のいいレンタル品くらいにしか思ってない。この写真だって、わざと見せつけてサイに嫉妬させる作戦に協力させられただけだ」
「でもさ、もしフレイがきみと付き合いたいって言ったら? きみはオーケーする?」
「しないよ」
アスランは淡々と答えた。「そもそも俺は『付き合う』っていうのがよくわからないし」
「…そうなんだ」
そろそろミゲルが到着する時間だったので、僕たちは校門へ向かって歩きながら話した。
「キラは女の子と付き合いたいって思うのか?」
「今はあんまり思わないよ、お金も会う時間も無いから。週末はバンドの練習メニューが鬼のように詰まってるし、バイトだってあるし。空き時間に女の子とデートする暇があるならアスランと遊びたいしね」
「それじゃあ俺がキラの追っかけの子たちの恨みを買うじゃないか」
「きみを嫌える女子っているのかなぁ」
アスランは僕の素朴な疑問をスルーした。「そう言えばミゲルも実は特定の彼女がいたことないんだよな。何かずっと関係が続いてる愛人はいるみたいだけど」
「愛人って」
というかミゲルは少女漫画でいうと、ヒロインとは結ばれないけど他に彼女とか絶対作っちゃいけないナイト的キャラなのでは。
「……あの人、女の子を平等に愛する才能を持ってるよね」
「俺が原因じゃないなら何でもいいんだ。アイツは俺のせいで色んなことを諦めてきたから」
「そうなの? …この街でいちばん自由気ままに生きてるように見えるけど。怖いものなしで、皆んなに好かれてて、まさにリーダーに生まれついたって感じ」
「物事を前向きに考えるのはミゲルの良いところだよ。俺に縛り付けられた人生なんてアイツには勿体ないのに」
『勿体ない』っていう言葉に僕はつい反応する。「でも、ミゲル自身がそれを望んでたら?」
「そういう問題じゃないんだよ」
校門の鉄柵が見えてきたところで立ち止まり、アスランは僕と向かい合った。
「ミゲルにとって身内に尽くすことは息をするのと同じだ。だから俺は一生アイツと対等な関係にはなれない。……それがときどき堪らなく嫌になるんだ」
「……うん」
アスランは憂鬱に微笑んだ。「俺にはやりたいことがたくさんあって……それさえ許されるのなら他には何も要らないと思ってた。だけどミゲルは俺にもっと我儘になれって言うし、おまえはもっと自由でいいって言うし__なんだか最近、わからなくなってる」
「それって、悪いこと?」
「かもしれない」
アスランはじっと僕を見た。
__深い緑の、人をどうにも落ち着かない気分にさせる目で。
「馬鹿げて聞こえるかもしれないけど、俺は何かを欲しがれば欲しがるほど、全部壊してしまいそうな気がするんだ。俺が物や人に執着してこなかったのは、本能的にそれを知ってたからなんじゃないかって。……だからひとりでいるほうが楽だったし、普通の友達付き合いっていうのがいまだによくわからない」
(ああ……そっか)
何となく感じていた。わざと突き放して、距離を置かれてること。
あれは、僕を彼のプライベートに踏み込ませたくないからではなく。
「ミゲルがおまえに俺のことを頼んだりしたかもしれないけど、そんなにいつも気を遣って俺とばかり一緒にいてくれなくて大丈夫だよ。__おまえとはちゃんと普通の友達でいたいって、俺はそう思ってるから」
はにかんだ笑顔を残して彼はミゲルの待つ校門へ行きかけ、数歩先で一度立ち止まった。
「__ラクスのこと…」
「え?」
「いつかおまえには話すよ。すぐには無理かもしれないけど」
「……うん。わかった」
どうして僕は言葉で伝えなかったんだろう。
僕はミゲルに頼まれたからアスランをひとりにしたくなかったんじゃない。
ただ他の誰かに僕のポジションを取られるのが嫌だっただけ。
あの頃、僕の中には正体のわからない苛立ちやもどかしさがたくさんあった。
アスランは僕がいつか彼から離れていくと思っていて、それを受け入れていることが寂しかった。
この想いは、恋じゃない。
__でも、この世で最も深くて最も重い愛情の名前が、恋だなんて誰に言える?
子どもの頃よく通っていた博物館に、大小のクジラの骨格標本が7体展示されていた。
2階に上がると、天井から吊り下げられた標本を近くで見ることができた。シロナガスクジラの脊椎やシャチの頭蓋の曲線の上で数式が踊っていて、何時間でも見ていられた。
7体合わせて約1100個の骨の形状を完全に覚えてしまうと、俺は今度は天井のワイヤーが一斉に切れて、標本がぜんぶ床に落ちてばらばらになるところを空想した。
(…やばい子どもだったよな。今思うと)
あの頃よりはマシになったつもりだが、昼間からふとしたきっかけでぼんやりする癖は抜けない。
春の気候のせいだろうか。最近どうも頭に霞がかかったようで、バランスが取りづらかった。
__「アスラン・ザラぁ!」
甘ったるい声が思考を割る。
フレイ・アルスターは獲物を捕捉したサラマンダーのごとく来襲し、剥き出しの両腕で俺の右腕をがっちりホールドした。
「良いところで会ったわ。アナタひとり? このまま一緒に中に入って!」
「は? …何で…」
押し付けられた体の柔らかさにぎょっとした。
しばらく会っていなかったが、大胆なワンショルダーのドレスを着てメイクを派手めに仕上げた彼女はすっかり大人びて見えた。
「彼氏と喧嘩したの。さあ、準備はいい?」
「準備?」
ようやく春本番を迎えたディセンベル、5月の夜。
開演1時間前となった国立歌劇場の正面階段には著名人が続々と到着し、パパラッチや報道陣のフラッシュを浴びている。
フレイがためらいなくその人だかりの中心を目指すので俺は再びぎょっとなったが、腕を振り解こうとするとどうしても、彼女の大きな胸を押し潰してしまうという事案が発生した。
後でどんな因縁をつけられるかわかったものじゃない。
もたついているうちに、彼女は俺をカメラの前に引きずり出すことに成功した。__目の眩むような光の嵐。
「フレイ! こっち向いて」
「フレイ! 彼は新しい恋人なの?」
親鳥に餌を求める雛みたいに、フレイ、フレイと口々に叫ぶ群衆。
無数のレンズの前で非の打ち所のない笑顔を振りまいたあと、120mmのヒールで階段をズンズン昇りながら女王陛下は悪態をつく。「もう、最悪な夜!」
それはこっちのセリフだと言いかけて、火に油を注ぐ真似はやめた。
国立歌劇場は19世紀に建てられた壮大なバロック調の宮廷劇場で、国賓を招いた晩餐会などにも使われる。縦長のホワイエには今宵、何百本ものキャンドル型の照明が煌めき、正装した人々が優雅なひとときを楽しんでいた。
クラシック音楽の演奏会にしては若い世代の観客_特に女性_が多い。
それもそのはず、今夜この場所で歌劇場所属の管弦楽団と共演するピアニストは、つい先日、世界最高峰レベルの国際コンクールで最年少優勝を果たしたばかりで、いま最も有名なティーンエイジャーのひとりなのだ。
(ニコルはメディアとの付き合い方がうまいんだよな)
テレビの密着取材にも快く応じるし、SNSもこまめに更新しているし。貴公子然とした容貌に加え、親切で人柄も明るく、マスコミに受けがいい。そういう資質を生かして、クラシック音楽をより多くの人々に親しんでもらうための活動を、地道に献身的に続けている。
思えば彼は子どもの頃からしっかり者で、モーツァルトの再来だとか100年に1人の逸材だとか、いくら周囲にもてはやされても、自分を見失うことがなかった。
「いいわねー、ボックスの特等席」
意外なことに、フレイは入場後も俺を解放しなかった。「あなた、ニコル・アマルフィともデキてるの?」
ニコル・アマルフィ『とも』?
「幼馴染だよ、彼の父親がMMIの重役で。__きみもニコルのファン?」
「私じゃなくて、彼がね。コンサートやオペラや、色々連れて行ってくれるの。今から勉強しておいたほうがいいって」
「大変だな」
「そうなの」
フレイはうんざり顔で頷いた。「ボックスなら、奥に座れば誰からも見えないわよね。そっちへ行ってもいいでしょ。クラシックのコンサートなんて私、確実に寝ちゃうから」
「俺の好きな作曲家は、いい音楽ほど眠たくなるものだから寝られないコンサートなんてダメだって言ってたよ」
「それ、今度インタビューで使うわ」
ちょっと目を離した隙にフレイが手にしていたシャンパンを俺は取り上げ、そばのテーブルに置いた。
「最近知ったんだが16歳未満の飲酒は州法で禁止されているらしいぞ」
彼女は常にスポットライトを浴びていないと光合成できずに死んでしまう生き物か何かで、周囲の関心を得るためにみずから危うい行動に走る習性がある。
顔見知りが山のようにいるのは俺も同じだ。ボーイフレンドの気を惹くためのダシに使われるくらいならともかく、学校に通報されるような面倒ごとは起こしたくない。
「何よ、いいじゃない、ちょっとくらい。どうせみんな私が急性アルコール中毒で何度も病院送りになったとか、乱交パーティで遊びまくってるとか言ってるんだから。私、まだヴァージンよ。ホント失礼しちゃう」
これがミゲルなら彼女の欲しい言葉を幾らでも言えるんだろうけど、俺にできるのは批判をしないことくらいだ。
井戸の底の石ころより少しマシな話し相手として。
「オーブのプリンスは、きみより『みんな』の言うことを信じる男なのか?」
フレイは顔をしかめた。「何でアナタがサイのことを知ってるのよ」
「彼が新入生の案内役で、秘密クラブにも誘われた。きみと付き合ってることはあとで知ったけど」
「……そういえばこの春からあなたも『お隣さん』なのよね。学校に行ってるイメージがないからつい忘れちゃうわ。ホントにあのアスランが、教室で大人しく座って高等教育レベルの数学や物理の授業を受けてるの?」
「学校でしか学べないこともあるってミゲルは言う」
「本当」
フレイはわざと感心して見せた。「1位以外の取り方とか? あなた男子校で友達なんかできないでしょう。私が男だったら、自分がシュモクザメに思えて死にたくなるもの」
シュモクザメ。
翻訳に少し時間を要してから俺は訊いた。「つまり、女性のきみは、俺の知能がちょっとばかり高くても劣等感をもったりしないと」
フレイは肩をすくめた。「イルカだって賢いけど、だからって自分と比較して落ち込んだことある?」
とりあえずフレイの中では俺はかろうじて哺乳類のなかまで、世の一般男性は魚類と同レベルなのだと言うことはわかった。
__友達が少ないのはお互い様だ、と思わないでもない。
「……友達っていうか、最近クラスでよく話すヤツならいるよ。俺よりIQが高いくらいで、特に数学の才能があるんだが、高校を卒業したらバンド仲間と南海岸に行くって言ってる」
「それって、もしかして“ソランジュ”でギター弾いてる子?」
「ああ。キラ・ヤマトってやつ」
「ふぅん。当ててみせましょうか。アナタ最初その子が嫌いだったでしょ」
「嫌いってほどじゃ……でもまぁ、少しね」
初めキラを敬遠していたのは事実だった。
「確かに、将来フィールズ賞を獲れる素質があるのにその道に進まないなんてどうかしてると思ったけど__キラは音楽方面の才能もあるからきっとプロになって成功するだろうし、代数幾何学の難問を解決するより、歴史に残る名曲を作ったほうが、より多くの人を幸せにするかもしれない…」
「ああもう、どうしてアナタってそう何でもかんでも分別をつけようとするの? アナタはそのキラって子が自由に見えて妬ましかったのよ、それでいいじゃない」
「いいって、人を妬むのが?」
「アナタにも人間らしい一面があるってことでしょ。なぁんだ、さっさと友達作って学校生活を楽しんでるのね」
フレイは面白くなさそうだった。「道理でさっき道で会ったとき、何か以前と違う感じがしたわ。昔はもっと機械っぽかったのに。うちの学校でも噂の的になってるわよ。あのミゲル・アイマンに指輪を贈ったザラ家の次期当主がどんな男なのか、皆んな興味津々」
「そう」
キラを友達と呼べるのかどうか考えていたので、俺は生返事をした。
「傑作なのはね、うちの最上級生の誰かがミゲルとアスランの禁断の恋を小説に書いて、それを友達が無断で本にしたのを、校内でこっそり回し読みしてるんですって。笑っちゃうでしょ。私はBLに興味ないけど、サディスティックで過激なセックスとストリートギャングの血みどろの抗争を描いた主従Loveが大好評で、すでにシリーズ化してるらしいわ。__あら、今のって、イザーク・ジュールじゃない?」
知ってる単語が出て来て我に返った。フレイはホワイエの入り口のほうを見ていた。「一瞬だったけど、絶対そうよ。こっちを見ていたみたい。ひとりなのかしら」
俺もフレイの視線を追ったが、それらしい姿はすでに消えていた。
「こんなところで見かけるのは珍しいわね。お父様が平気で愛人を連れて出歩くから、アイツが社交界を嫌うのも無理ないけど」
それで俺は、彼がマティウス・アーセナリー社の経営一族である伯爵家の嫡男だということに思い至った。
先日、ライブハウスの楽屋でキラにメンバーを雑に紹介されたとき、どこかで聞いた名だと思ったのだ。
「こっちに誘ってみるか?」
俺の予想を裏切って、フレイはこの提案を気に入らなかった。「何よ、私をていよく押しつける気?」
「いや、俺も全く知らない仲でもないから。貸切のボックスだから席は余ってるし、きみも俺とふたりじゃ退屈だろ」
「アナタが誘いたいなら誘えば」
「……」
気を利かせたつもりが、かえって不機嫌にさせてしまった。
俺の無言の困惑を悟ったフレイは、少し態度をやわらげる。
「私、美形なんてお仕事で見飽きてるし、ああいうプライドの高い男とは反りが合わないのよ。アイツ、自分が退いて女を立てるようなタイプじゃないから」
「……そうなのか」
「それに短気でキレやすい男は嫌いよ。結婚するなら、滅多に声を荒げたりしない、穏やかな人がいい。私のどんなわがままも許してくれて…」
華のある外見と勝気な性格のせいで誤解されやすいが、彼女の内面は脆くて繊細で、俺にはいつもギリギリのところで立っているように見える。
大人っぽいドレスと、カーペットに突き刺さりそうなスティレットヒールでせいいっぱい背伸びしても、まだ15歳の女の子なのだ。
俺はこれ以上失敗しないよう、考え考え口を開いた。
「…それが問いなら、答えはサイ・アーガイルで合ってるんじゃないか?」
「そんなの自分がいちばんよく知ってるわよ。……でも何だかときどき、『正解』を行くことが無性に息苦しくて、そんな私に気を遣ってくれる彼にすらイライラしちゃうの」
俺は黙っていたが、フレイが言いたいことはわかる気がした。
「モデルはパパの知り合いの勧めで何となく始めたお仕事だけど、カメラの前で演じるのは好き。私、子どもの頃から映画女優に憧れて、ごっこ遊びをしてたわ。ヴィヴィアン・リーやオードリー・ヘップバーンになったつもりでにっこり笑うと、無敵の気分になれるの。……今なら女優になるのも夢じゃないのに…」
フレイは溜め息をついた。「パパは、高校を卒業するまで女優はダメだって。サイのご両親は、私が卒業したらすぐオーブへ来ると思ってるわ。サイもそうして欲しいんですって」
俺は彼女を取り巻く世界に目をやった。
宝石にシャンパン、高級スーツ、品格ある英語のアクセント。
「きみはこういう場所が__パーティや贅沢が好きだし、いつも自分がいちばん目立っていないと気が済まない性分だろう。オーブのプリンセスで手を打つのも悪くないさ」
「そんなふうに言うのはアナタだけよ。普通は皆んな、『自分の人生なんだから親の反対なんかで夢を諦めるな』とか、『そんな男さっさと振っちゃえば』ってアドバイスするのに」
言われて俺は苦笑した。「自分ができないことを人に勧めるのはちょっとね」
「……私に言わせれば、アナタは何かそういう次元を超越して見えるんだけど」
「え?」
「神様に与えられた宿題のことで頭がいっぱいで、周りの思惑なんて気に懸けてる暇がないって感じよ」
「……どうかな。俺だって家出を企てたことくらいあるぞ、何度も」
「そうなの?」
早熟してついに反抗期を迎えた俺に、父は最初は子犬や馬を与え、次にミゲルを連れて来た。
家から逃げるという考えを俺に捨てさせるためなら、父は何だってやった。
「でもまぁ、不自由イコール不幸ってわけでもないから。きみだって父親の言いなりに結婚するのが嫌なわけじゃないんだろ」
「そりゃあ私はパパを愛してるし、パパが誰よりも私の幸せを願ってるのも本当だもの。ジュール伯みたいなロリコンの遊び人が父親だったら、とっくにセントラルへ逃げて女優の勉強をしてるわよ」
フレイは顔をしかめた。「__あちこちで隠し子を作った挙句、息子とほとんど歳の変わらない義理の姪にまで手を出すなんて、ホント気持ち悪い。その姪っていうのも、とんだアバズレよね。エザリア様が病気がちなのをいいことに家に入り込んで、すっかり伯爵夫人気取りよ。……だからってイザークが外でキレてひと様に迷惑かけていい理由にはならないけど、同情を禁じ得ないわ」
ニコルが舞台へ上がり、オーケストラと観客に拍手喝采で迎えられる様子を、2階のバルコニーで見守る。
ブラームスのピアノ協奏曲。ピアノソロの独壇場というよりもピアノとオーケストラの掛け合いが連綿と続くこの作品から始まるところが、何ともニコルらしい。
並々ならぬ集中力が問われる難曲だが、壇上の彼に少しも気負うところはなく、まるで長年の愛読書を最初からまた読み始めるときのように、ゆったりとしたテンポで入っていく。
第1楽章が始まって少ししてから、俺は何というわけもなく、観客席にイザーク・ジュールの姿を探したが、隣にいるフレイの邪魔になりそうだったので、すぐに舞台へ視線を戻した。
ニコルはいつも、そうできるのが嬉しくてたまらないというように鍵盤に触れる。
__もっと楽しんでいいのかもしれない。人として生まれてきたことを。
アイツのピアノを聴いていると、俺もそんなふうに思えた。
もうずっと、思い起こせる限り小さかった頃から、繰り返し同じ場所の夢を見ている。
そこは大きな礼拝堂のような部屋だった。
床や壁は区別がつかないほど真っ白で、扉も装飾も無い。遥か頭上の屋根はパンテオンのそれに似た巨大な半球形で、真ん中には明かり取りの穴が空き、丸く切り取られた星空が、親指の爪ほどの大きさに見える。
足もとには、大小さまざまな骨が散らばっている。枯れ枝に見紛う古い骨や、ついさっき洗浄されたかのような真新しい骨。頭蓋や肋骨はヒゲクジラ亜目のそれに似ているが、胸鰭と思しき骨は大きく発達して、手に取れば翼の骨のように軽い。
触れた指先から、骨の記憶が伝わってくる。流れる砂のように、海鳴りのように、クジラの歌のように聴こえる。その音を頼りに、俺は骨と骨を繋ぎ合わせて、あるべきかたちに還してゆく。
それは途方もない根気と体力を要する仕事で、俺は何度も失敗し、ときには最初からやり直さなければならなかった。
やっとの思いで完成させた巨大な骨格標本は、いつも一瞬だけ命を持って動きだした。“骨クジラ”は俺をねぎらうようにゆったりと宙を泳ぎ回ったあと、役目を終えて霧散した。心臓部で核となっていたものだけがあとに残り、一粒の結晶になった。
血の滴るようなルビーや、青い虹のかかった月長石、シェリー酒の香りがするトパーズ。石は光を放ちながら天井へ昇っていき、丸窓から外へ出て、夜空へと消えた。
あの遠い星の輝きがすべて、俺のようにここで命を削った誰かの証なのか。
俺は少しのあいだ空を見上げて、地上に散らばる無数の骨に視線を戻す。
自分のなすべきことはわかっていた。
宇宙の膨大な情報が死んだ骨たちの中に宿っていて、俺が取り出してやらないと、永遠にここで死に続けているのだ。
__けれど全てを解き放つには、俺の命がとても足りない。
『大丈夫よ、アスラン。サーシェンカ。目を閉じて、私の声だけを聴いて』
彼らの呼び声は時にうるさ過ぎるほど大きくなって俺の日常を侵食し、幼い頃は、ところ構わず襲ってくる白昼夢に怯えて過ごした。
うずくまる俺のこめかみを母さんは両手で包んで、俺が落ち着くまで柔らかい声で語りかけた。
『あなたはどこもおかしくなんかないわ。ただ少し人よりバランスを取るのがヘタなのね。自分をコントロールするコツを覚えなさい。何でもいいのよ、パズルを解くのでも、音楽を聴くのでも。楽しいと思えることを全力でやりなさい』
母さんに教わったピアノは、俺をひとりの天才に引きあわせた。
『やめないでくださいね、ピアノ』
母さんが死んで、俺がコンクールに出なくなったとき、ニコルはわざわざ家に訪ねて来て言った。
『僕、アスランのピアノが好きなんです。毎日何時間も、地道に努力してきた人にしか出せない音だ。あなたのピアノに背中を押されて、僕は今ここにいるんですよ』
アイツがそんなふうに思っていたのを初めて知った。俺にとってピアノはいっときの避難所のようなもので、彼のように音楽を慈めたことなんかない。
それでも、ニコルの真摯な眼差しと共に、彼の言葉は俺の骨髄に浸潤し、俺の背中を支えた。まだ『ここ』に立っていられるように。
ラクスが俺のセイレーンなら、ニコルはオルフェウスだった。
頭の霞が晴れていく。彼の奏でる音が、俺を此岸に繋ぎ止める。俺はいい意味で集中し、段階的にバランスを取り戻す。
(……うん。いつものニコルだ。限りなく複雑で、何処までも澄んでる)
演奏が終わるやいなや、観客は総立ちになった。
割れんばかりの喝采の中でニコルはこっちを見上げ、茶目っ気たっぷりに微笑んだ。
ジュニアコンクール時代、ニコルの演奏中にリラックスし過ぎて眠ってしまったことがあって、それ以来俺は彼のピアノを聴きに行くたび『寝てませんでした?』とからかわれる。
「……すごい」
隣で手を叩きながらフレイが呟く。「50分があっという間だった。ドイツ音楽っていうからもっと重苦しいのを想像してたけど、晴れやかで懐の深い感じ。私、この曲好きだわ」
それを聴いて思わず笑みが浮かぶ。「終わったら楽屋に行くけど、一緒に来るか?」
「素敵。でも、お邪魔じゃない?」
「きみの率直な感想を聴いたらニコルも喜ぶよ。……その代わりと言っては何だが、俺がずっと起きてたって証言してくれると助かる」
「イザークは生まれ変わったら何になりたい?」
「人間の男」
「ブレないな」
「おまえはどうせ人外なんだろ」
「まぁね。当ててみて」
「イソギンチャク」
イソギンチャク…?
俺は重い瞼を持ち上げて、ガレージの薄暗い天井を睨んだ。
夏の長い日もようやく暮れて、体感では今、22時ごろか。
「……俺たち付き合ってどのくらいになるんだっけ」
「17ヶ月と7日。……やっぱりクラゲだったか?」
「523日も付き合ってるのに、何で俺がそんなに刺胞動物にこだわってると思えるんだよ」
「感情が邪魔だって顔をしてた」
「いつ?」
イザークは白い上半身を起こして、よく見ようとするように俺の頬に両手をあてがう。
安物のスプリングがぎしりと音を立てた。
「俺から逃げたくなった? アスラン」
「…何で」
イザークは言いたくなさそうに、渋々答えた。「俺はおまえのことになると普通じゃなくなる自覚がある」
「そうなのか。でも、おまえは俺の知り合いの中ではかなりまともな部類に入るぞ」
「確かにおまえの周りにはクセの強い人間ばっかりわらわらと集まってくるが」
「大変遺憾に思う」
「俺の頭はおかしくなったんだ。このままだといつか本当におまえを殺すかもしれない」
「……」
俺たちは幾らか間抜けに見つめ合った。
真面目な話のようだったので、俺は適当に返事をするのをやめた。
「……どうした? イザーク」
「きっとこれも濃すぎる血縁の弊害だな」
イザークは投げやりな溜め息をついて隣に寝転がった。「俺の家系は、近親婚を繰り返したせいで遺伝性の疾患を抱える人間が多いんだ。曽祖父は難聴だったし、そのいとこ2人は重い知的障害でずっと施設にいた。俺の両親も高祖父が一緒で……母は俺を妊娠したとき、心配のあまり鬱になったらしい」
「まぁ、先天性の病気を持って生まれる遺伝学的な確率はかなり高くなるね」
ユニウスの館でジュール家の先祖の肖像画を見たことがある。
貴族同士なんて、家系図を辿っていけばどこかで繋がっていることが珍しくない。俺の母方の傍系の先祖にジュール家の女性と結婚した人がいたらしく、その肖像画の貴婦人の髪も見事なプラチナブロンドだった。
「そもそもが先代の伯爵が決めた政略結婚で、無理があったんだ。祖父には娘が1人しかいなかったが、マティウスでは女は爵位を継げないので、継嗣の男を婿にとった。娘夫婦の間に男子が産まれれば、先祖代々の土地と城を直系の孫に残せるって理由で」
「その通りになっただろ」
「先代は満足して死んだかもな。残された俺たちは今も『おじいさま』の強欲のツケを払わされてる」
透きとおった髪をかき上げ、イザークは乾いた笑いを浮かべた。「今どき、爵位にどれだけの価値があるってんだ。それは母の心を壊してまで守らなきゃいけないものだったのか? ……土地なぞ潔く何処の馬の骨とも知れない男にくれてやって、母には会社だけ譲ればよかったんだ」
(……いや、笑って言うことかな)
幼い頃からずっと、病弱で精神的にも不安定な母親を支え続けたイザークの気持ちは、俺にはわからない。少なくとも俺の母は小さい息子に依存するような人ではなかった。
「出生時の検査で異常は無かったんだろう?」
「だから、検査でわからないところがおかしいんだ」
イザークは言い張り、俺はふと気になって尋ねた。「…それ、ミーアのお父さんに相談した?」
「するわけないだろ。頭がイカれてるかもしれない男を娘のそばに置いておく父親がいると思うか?」
「……そうか。そりゃあそうだよな」
「そう言えばおまえ、Dr.キャンベルにカウンセリングを受けていたんだったな」
「昔ね。……俺にはやっぱりおまえは至極まともに思えるよ。まぁ確かに最近ちょっと情緒不安定だな」
「能天気か」
イザークはじれったそうに言った。「昨日のあれは情緒不安定とかそういう問題じゃないだろ。浜で他人といるおまえを見たら急に抑えが効かなくなった。……何であんなことをしたのか自分でもわからん。ケモノにでもなった気分だ」
「…ああ、感情が邪魔とかって、昨日のことか」
俺は苦笑いした。「でも……アレはお互い様だろ、俺も本気で止めなかったし」
昨日の土曜日、俺は夕方からキラの仲間と出かけた浜で、偶然イザークに出くわした。彼の知らないところで俺が楽しんでいたのが癪に触ったのか、イザークは無理やり俺を連れ出し、物陰に引っ張り込んだ。
(…まさか本当に最後までやるとは思ってなかったけど…)
激しかったセックスをつぶさに思い出してしまって、今さら赤面する。
キラが探しに来るかもしれなかったし、仲間がすぐ近くにいると思うと気が気じゃなかったが、イザークは俺の弱々しい制止なんか聞かなかった。壁に押しつけられて強引に入って来られると、なけなしのモラルは容易く陥落した。
不安定な体勢でからだを繋げ、イザークの怒張した性器が内壁を擦り上げるたび、意識が飛びそうによかった。
今も右親指の付け根がじんじんと痛い……ずっと自分で噛んでいたから。
「……貴様」
ひとりで赤くなっている俺に気づいて、イザークは怒ったようにシーツをはねのけた。「俺が強姦罪か過失致死罪でムショ行きになるかもしれないってときに、いい度胸だな!」
そのまま上に覆い被さってくる体をかわし、くるっと視界を反転した。
組み敷いたイザークの下腹にまたがって、俺は均整のとれた美しい体を見下ろした。
「…ひとつ、俺はおまえにうっかり殺されるほど柔じゃない。おまえをこうやって捩じ伏せることくらい本当は簡単だし、人の急所は全部知ってるし、素手でだって殺せる。そういうふうに訓練されてる」
イザークは抵抗を返すこともなく、魅入られるような顔で俺を見あげた。
俺は彼の胸板の、心臓の真上に手を置いた。
「ふたつ。忘れたのか、イザーク? 俺は『怪物』の息子だぞ。ケモノは俺のほうだよ、おまえじゃない」
「……そうだな」
イザークは片肘で体を起こし、もう片方の手で俺の後頭部を引き寄せた。
間近に俺の瞳を覗き込んで、イザークは嗤う。
「やたらに毛並みのいい、緑の目のケモノだ。……俺が手なずけた。おまえが逃げたって、もうどこにも逃してやらない」
囚われる。
アウイナイトのような、深い青の海に。
「……なら、せいぜい俺をしっかり捕まえておけよ」
「そうやって俺を煽っておいて、少し目を離すとすぐふらっといなくなるから腹が立つ」
イザークは俺の首筋に手をやって、嫌がらせのように細い銀のネックレスを引っ張った。
少々物騒な目をして彼は言った。「おまえの大事なものを全部ぶっ壊してやりたくなる。おまえが俺のことだけ考えられるようにな」
「三つ、俺はおまえになら何をされても構わない。イザークがそうしたいなら、壊せばいいよ」
俺を犯したいなら犯せばいいし、殺したいなら殺せばいい。
__俺がおまえの世界からいなくなる前に。
「……貴様のそういう受け身なところが死ぬほど嫌いだ」
イザークは忌々しげに言って、俺の唇を塞いだ。
口づけ合いながら、再びシーツの波に沈む。
イザークの長い指が俺の陰茎にかかり、また小さな死を促した。燻っていた熱を吐き出して、脱力したところをつけ狙われる。
挿入に痛みはなく、甘く痺れるような刺激が腰から蔦のように這いあがった。首筋にかかるイザークの息が熱い。
俺にこんなふるまいをして許されるのは彼だけだ。
緩慢な律動を送られて思考の逃げ場を失いながら、虚ろに思う。
(……おまえのほうが壊れそうなくせに)
春に伯爵夫人の病状が悪化して、余り楽観視できる状況ではないらしい。
同じ時期から、イザークの世界のバランスがひどく悪くなっているのを感じる。
昨日はあのあと、ふたりでイザークのガレージに帰った。今朝はイザークはバイトに出かけ、俺は昼前に起き出して洗濯と掃除をし、キラとミゲルに1行ずつメールした。
イザークは夕方になって帰って来た。彼の買って来たクロワッサンをふたりで食べ、それからずっとベッドにいる。
イザークは丹念に味を確かめるように俺を抱いた。俺の弱いところを全部暴くように、前からも後ろからも、指も舌も使って、俺の感覚や表情を引き出した。
昨日とは打って変わって行為自体は緩やかなのに、やはり主導権は明け渡されたまま、俺はまた、からだの隅々まで彼に支配される。
__生まれ変わったら。
俺はアキアカネになって虫の目で地球を見てみたい。ハイイロオオカミの鼻で数キロも先の出来事を知り、強靭な脚で大地をどこまでも駆け抜けたい。マッコウクジラになって水深数千メートルの極限の世界へ行きたいし、地中の微生物になって1億年の悠久を生きてみたい。
……だけどいちばんは、本当は、『アスラン・ザラ』じゃない人間として生まれ直したかった。
イザークを最奥へ抱き入れて溺れながらも、また頭のどこかであの幻を追い始める。
時間の砂が流れていく。骨の中の海が騒ぐ。白い薔薇の庭で少女が歌っている。
__気づけば俺も17だ。あの頃のラクスと同い年になる。静かにこの世から去ることを決めた彼女に、世界をよりよい場所にすると約束した。
俺がこんなふうじゃなければ。
イザークに会って、よく想像するようになった。
俺がザラじゃなくて、変な幻も見なくて、もしイザークの恋人になれたら。
抱き合えば抱き合うほど埋められないこの隙間も、最初から無かったんだろうか。
***
家を出たいきさつについてイザークは結局はっきりとは語らなかったし、俺も改めて尋ねたりしなかった。
別に、いつか自分から話してくれるのを待っていたわけでも、本当のことを知りたかったわけでもない。
思えば最初から、イザークとの意思疎通に会話は余り必要なかった。付き合ってからはますます言葉が余計になっていき、敢えてお互いの込み入った事情を打ち明け合うようなこともなかった。
それでいいと思っていた。__そのほうがより確実に、イザークを俺の影響の外に置いておける。
キラとは一定の距離を取りやすかったが、イザークに対して俺は、ちょうどいい距離感を見失いがちだった。……たぶん俺たちは本質的なところが似ているんだろう。初めて目と目を見交わしたときから、強烈に惹き合うものを感じていた。
高1の冬、イザークに俺を好きだから友達でいられないと言われたとき、俺は自分に小さな我がままを許すことにした。__再来年、イザークがこの街を出ていくまでは、そばにいてもいいだろう。
そして1年半が経ち、あのとき下した判断を後悔はしていないが、何もわかっていなかったと猛省している自分がいる。
即物的な関係にとどまるのが想像以上に難しくて、ともすれば深みに嵌ってしまいそうだ。
もっとうまくコントロールしないと、いつか俺はイザークを独り占めしたくなってしまうかもしれない。あるいは、イザークが信念を捨てて俺の方へ来てしまうかもしれない。
すでにミゲルというひとりの人間を自分の人生に付き合わせてしまっている俺にとって、イザークの運命まで狂わせてしまうことはもはや恐怖だった。
そんな重荷にはとても耐えられない。
何より、イザークと対等に向き合えなくなるのは、彼と二度と会えなくなるよりずっと不幸なことだと思えたのだ。
「なぁ、アンタ」
7月某日。
貸しスタジオの自販機が壊れていたので外まで探しに出たところで、ふたり組の少年に声をかけられた。
「アンタ、アスランだろ」
俺がひとりになるタイミングを待っていたらしい。害意はなさそうだったので立ち止まると、相手は藪から棒に訊いた。
「イザーク・ジュールはアンタの恋人か?」
俺は返事をしないで、彼らをもう一度観察した。
正直、他人の顔を覚えるのは苦手だが、どこかで見たことがあるはずだった。
ふたりとも14歳前後で、あまり身なりはいい方でなく、街の南側の河口地域のきつい訛りがある。
「きみたち、先月“オライオン”で3番目に演奏してた?」
「ああ、まぁ」
彼は簡単に自己紹介した。「俺はスティング。コイツはアウルっていう」
もうひとりの喋らないほうはチラリと俺を見て、またそっぽを向く。
視線にそこはかとない敵意を感じた。俺個人に向けられたものというより、狭くて濃密なコミュニティで育った子ども特有の、『外』の人間に対する警戒心。
「イザークなら、そこの地下に降りて1つ目のドアだが」
「俺らはアンタに頼みがあって来た。イザークの妹のことで」
一瞬聞き間違えたかと思った。「……妹?」
「腹違いってやつだ。ステラのお袋さんは伯爵の愛人だった」
……『あちこちで隠し子を作って』と、フレイが言っていたのはいつだったか。
「親同士はとっくに別れて、アイツ、母親にも捨てられて施設にいたんだ。俺らもそこ出身で……まぁ色々あって、今は俺とアウルで面倒を見てる。アイツ病気で、医者が言うには専門の施設に入れたほうがいいらしいんだけど、俺らじゃ治療費が払えねぇ」
嘘を言っているようには見えなかった。
「アンタ、金持ちなんだろ。ステラを助けてやってくんねぇかな」
「……その子のことは気の毒だと思う。だがイザークには関係ないことだし、俺が彼女を助ける義理もない。父親が何とかするべきだろ」
言いながら腹が立ってきた。そのステラという子は何も悪くないから余計に。
世の中、無責任な親が多すぎる。
このふたりだってまだ子どもなのに、大人は何をしているんだろう。
俺が携帯電話を取り出すのを見て、アウルという少年が口を開く。「行こうぜ、スティング。やっぱりこんなヤツに話したって無駄だ」
「ちょっと待て。彼女の母親の名前は?」
「……シビル・ルーシェ」
スティングが答えた。「フランス人のバレリーナだった」
俺はふたりを手ぶりで引きとめ、電話を耳に当てた。
「ミゲル。イザークはそこに居るよな? ああ、自販機が故障してたから近くの売店に…わかってるよ、うるさいな。…いいから俺の質問にYESかNOで答えろ。イザークの父親と関係があった女性の中にシビル・ルーシェというバレリーナがいたか? …それで、彼女と伯爵の間には娘がひとりいるのか? …そうか。いや、それだけ。…うん、すぐ戻るから……は? この制服でタバコなんか買えるわけないだろ、どう見ても…」
ミゲルは俺に使い走りを言いつけてさっさと電話を切った。
(…ったくもう)
禁煙中のイザークが嫌な顔をするのをわかっていて、スタジオで癖の強いタバコばかり吹かすアイツもたいがい好戦的だ。
とにかく話の裏は取れた。アイツの身辺調査もたまには役に立つ。
俺はちょっと考えてから言った。
「こうしようか。まずは明日の夜、きみたちの家に案内してくれ。その子に直接会って、詳しい事情を聴く。あとの話はそれからだ」
ふたりは揃って面食らった犬みたいな顔をした。
「家に、って……」
アウルがうたぐり深い目つきで言った。「俺らが何処に住んでるかわかってて言ってんの? アンタみたいな温室育ちのおぼっちゃんが出入りするとこじゃないぜ」
バカにされてムッとした。(家の庭に温室はあるが。)
「きみこそ俺が誰だかちゃんと知ってて話を持ってきたんだろうな? 赤ん坊の頃からスラム街出身や刑務所帰りの男たちに囲まれて育ったんだ、チンピラやヤク中の男娼の相手なんかどうってことない。……そう言えば、その子はクリーンなんだろうな? きみたちは?」
「クスリはやってねぇよ。けどステラは…その、何度か…」
口ごもったアウルに代わってスティングが言った。「ODをやった。テンションが下がるとそういう発作が出るらしい。俺らが留守の間は知り合いに預けてる」
「そうか。ならすぐに入れる施設を探したほうがいいな」
「…俺らがこんなことを訊くのも変だが」
まだ半信半疑というふうにスティングが言った。「なんでステラを助ける? アンタの言うとおり、そんな義理は全くねぇだろ」
「きみたちがイザークでなく俺に相談してくれたから」
そう、俺はやっぱりイザークが大事で、アイツと同じ夢は見られなくても、アイツが逆境を跳ね除けて高みに行くことをこんなにも願っている。
先日、伯爵夫人が亡くなって、イザークの肩の荷が少し下りたように見えた。
少なくとも、彼はもう四六時中、母親の心配をしなくていいのだ。彼をこの街に縛りつけるものも消えて、セントラルへでも何処へでも自由に飛んでいける。
「それに、街の掟を破ってまで俺に近づいたってことは、よっぽど困ってるんだろう? その子のためにミゲルに睨まれるリスクを取ったきみたちに誠意で答えるのが筋だ。__ただし、これからもこの件にイザークを巻き込まないと約束してくれ」