11歳の冬、火事で両親と家をいっぺんに失った。
それでもまだ、里子に出されなかっただけ幸運だったと、今になって思う。叔父夫婦は幼い息子を2人抱えていたのに、俺と妹を一緒に引き取ってくれた。
妹のマユは最初は泣いてばかりいたけど、じきに叔父夫婦に懐いた。娘が欲しかったと言う叔母がマユを可愛がってくれたので、ちょっと甘ったれに育ってしまったくらいだ。
けれども俺は、高校を卒業するまでとうとう新しい家族には馴染めなかった。
父さんの保険金のおかげで俺たちの養育費は何とかなったが、あの家ではいつも肩身が狭かった。両親の記憶が薄れるにつれて明るさを取り戻してゆくマユにも、どこか裏切られたような気持ちだった。中学生になるとあまり家に帰らなくなり、心配する叔父と衝突を繰り返した。
死んだ両親のためにも高校までは出ろと言われて、学校には嫌々通っていた。でも部活は好きだった。自分が奏でる爆音の中にいるあいだは、嫌なことを全部忘れられたから。
そのうち、既存の曲じゃ物足りなくなって、見よう見まねで曲を書き出した。俺に才能があると言ってくれる人もいたし、バンドは楽しかったけど、あくまでも遊びの範囲だった。
あの頃、一日も早く大人になって、誰にも頼らずに自分の力で生きていきたいと、そればかりを考えた。
やりたいことなんて別になかった。目の前には暗くて狭い、出口の見えないトンネルがあって、俺はどうすれば抜け出せるのかもわからず、がむしゃらに走っていただけ。
”ソランジュ”のYzakは、そんな俺の人生に突風を巻き起こし、あの暗闇を一瞬にして消し飛ばした神サマだった。
唯一無二の音で。それは白くて熱くて、目が眩むような光。
まさしく天啓だった。
初めてYzakを見たときの、あの霊感。
あんな運命の出会いは、きっと一生に一度きりだ__そのはずだった、けど。
(……アスラン、俺の曲聴いてくれたかな)
最近、何をしていてもあの人のことが気になってしょうがない。
暗い講堂でピアノに向かっていた光景が、頭を離れなくて。
胸がざわざわして、でも嫌な感覚じゃない。これは、初めて"ソランジュ"のライブに行ったあと数日間微熱が続いた、あのときの感じに似ている。
……そう、似ているんだよな。
演奏していたアスランが、何故か俺の中のYzakのイメージにダブるのだ。
(何気に、似たような背格好だし。ふたりともインテリっぽいクール系だし。雰囲気とか、あと、話し方)
Yzakのインタビュー記事を広げたまま、また俺はアスランのことを考える。
”ソランジュ”のメンバーの出身地は全員、アスランと同じディセンベル。俺も北部生まれだけど、北部は南部よりも上中下の社会階級の棲み分けがはっきりしていて、育った地域によって同じ英語でもアクセントがかなり違ってくる。アスランの言葉には、あの地方の強い訛りが一切無い。Yzakもそうだ。
アスランやYzakの話し方は、上流階級の人々のそれだった。
(俺、耳いいから、そういうの一発でわかっちゃうんだよな)
いま俺には、アスランに訊きたいことが山ほどある。
例えば、あの夜一緒にいた若い男とはどういう関係なのか、とか!
「お兄ちゃん」
(やけに親しげだったし。セントラルに知り合いがいるなんて聞いてない。誰なんだよ、いったい)
「お兄ちゃんってばっ」
寝転んでいたカウチの前に、マユが仁王立ちになっていた。
「……何だよ」
「学園祭のショーの準備が遅れてるから、今夜から2週間、チームメイトがうちに泊まりに来ることになったの。お兄ちゃんはよそで寝てね」
「あーはいはい」
最近、怒ると母さんに似てきたぞ、マユ。
学校の友達が家に来るんなら来るって、もっと早く……
「はぁ!? 2週間?」
がばっと起き上がった俺を無視して、マユは「こんなに散らかして!」とスナック菓子の袋をゴミ箱に放り込む。
「ちょっと待てよ! 急にそんなこと言われたって」
「急にって、お兄ちゃんこっちに来て1ヶ月以上経つじゃない」
そう言って腰に手を当てる仕草は可愛い。
可愛いけど、でも、おまえは本当にあのマユなのか!?
「いい加減、出てって欲しいのよね。お兄ちゃんがいるから部屋に友達も呼べないし」
「……わかった。なるべく早く、どっか住むとこ見つけるよ。でも今日いきなりってのは」
「ネットカフェで寝ればいいじゃない。格安のとこ、知ってるよ」
「マユ〜!」
そんな無慈悲な! 今夜から路頭で彷徨えっていうのか?
「あ、そうだ。はいこれ」
マユはメモ用紙を一枚寄越した。「チケットのダウンロード、この番号でできるから」
「チケット?」
「"ソランジュ"のコンサートだよ? まさか忘れたの?」
「…ああ、いや…」
そうだった。受け取ろうとしたら、マユはさっと手を引っ込めた。
「欲しいでしょ? 泣く泣く譲ってあげるんだから、夜までに出て行ってね」
「な……」
マユ……?
「じゃ、あたし学校行くから。合鍵は持ってっていいけど、しばらく忙しいから来ないでね。住むとこ決まったら教えて、荷物送るから」
行ってきまぁす。
ドアが開き、そして閉まる。遠ざかってゆく靴の音。
静まり返った部屋の中には、呆然と座りこんだ俺、ひとり。
「嘘、だろ……」
あの優しい、兄思いのマユが。
……豹変。
「アスラン・ザラ。来客ですよ」
メールを書いていたら声をかけられて、一拍置いて顔をあげた。「__あ、ハイ」
年上の大学院生は事務的に言った。
「長身の若い男性でした。最寄りのカフェテリアで待つよう場所を教えておきましたから」
「ありがとうございます」
「デートの待ち合わせ場所じゃあるまいし、部外者をラボに呼ばれるのはいい加減困りますよ。ここにはMMI社の機密情報もあるんですから」
彼は素っ気なく言って、こちらが答える暇もなく立ち去る。
(……あ、シンのことか)
どうやら俺は彼に嫌わているらしい。PCに目を戻したとき、ポンと背中を叩かれた。
Dr.バルトフェルドが、お気に入りのマグカップを片手に立っていた。
「きみがそのMMIの親会社の、CEOのご令息だって彼に教えたら、ビックリさせちゃうだろうねぇ」
俺は苦笑いを返す。「教えなくていいですから」
「まぁ、大目に見てやってくれよ。彼、S誌に載ったきみの学士論文にショックを受けたみたいでさ」
「気にしてませんよ」
キラやシンのように何故か俺を構いたがる人間もいれば、一方的な敵意をぶつけてくる人間もいる。自分の恵まれた環境が周囲の反感を買いやすいからといって、気に病んでばかりもいられない。
「シンくんは元気かい? 彼も忙しいのかな。いい豆が入ったから、ぜひ感想が聴きたいんだけどなぁ」
「俺も最近会ってなくて。……すみません、ちょっと出てきます」
断りを入れてラボの建物を出てから、そう言えばしばらくシンを見てないな、と思った。
前は3日と空けずに現れたのに、ぱったり来なくなった。10日ほど前に突然、自作の音楽ファイルを幾つか送って寄越したきりだ。中身は過去のライブ映像とデモ音源だった。
(……そうか、感想とか返してなかったな)
『地元じゃそこそこ有名だった』と本人が自負するだけあって、”インパルス”の曲は悪くなかった。難点があるとすれば、シンが『巧すぎた』ことだ。彼の演奏の技術は突出していて、他のメンバーとレベルが合っていなかった。
まだ浅い付き合いだけど、少し安心した。
腕の良い仲間と、運に恵まれれば、シンは商業的にもミュージシャンとしてやっていけるだろう。素質があるかどうかくらいは、イザークやキラを側で見ていた俺にもわかる。
(……”ファントム”のことをシンに打ち明けるには、いい機会なんだが)
スティングとアウルが抜けたら、さすがにもう続けるのは無理だろうと思っていた。そんな時期に、曲が書ける人間と偶然知り合うなんて、奇跡的な巡り合わせだ。
__そうは言っても。
(シンにはシンの都合があるし、こっちは訳アリだらけだ。かえってアイツの夢を奪ってしまうんじゃないか? ……そもそも、”彼女”に会わせるなら”ソランジュ”と俺たちの関係を話さざるを得ないだろう。シンにとっては重荷になるだけかもしれないのに)
あれこれ悩みつつ歩いていたら、目的の建物を通り過ぎそうになった。
学内の書店に隣接するカフェテリアに入って、ざっとテーブル席を見回した。人影もまばらな時間帯だったが、それらしき人物の姿は見当たらない。
(……『最寄り』って言ったらここだよな)
長身、若い男。てっきり”彼”のことだと思い込んでいたので首を傾げたが、そのとき後ろから、予想外の声が降ってきた。
「ヴァシリーなら来ねぇぞ」
「…!」
振り返るまでもなく、懐かしさがこみ上げてくる。
「ミゲルなのか? 久しぶ…」
まず、黒いスーツが目に入った。
サングラスつきの顔を見上げたとたん、再会を喜んでいる場合じゃなかったことを思い出す。
記憶よりも、襟足の短い金髪。寛げた白シャツから覗く刺青。どう見てもカタギの人間に見えない風体に、居合わせた学生たちの視線が集まっている。
ミゲルは両手をポケットに突っ込んだまま、こっちをじろじろ見下ろしてからこう言った。
「相変わらず針金みてーに細っこいな。ちゃんと肉とか食ってんのか」
……うん、相変わらずなのはお互い様だ。
「ヴァシリーは? 来ないって、どういう…」
「アイツはお役御免だ。当然だろ」
「……まさか、殴ったりしてないよな?」
俺の詰問に答えず、ミゲルは背を向けた。「ここじゃ話せないこともあるし、外に行こうぜ。腹減ってんだわ俺。この辺でいちばんシーフードのうまい店を教えろよ」
にこりとも笑わず、マイペースに出口へ向かう男に、仕方なく無言で従った。
外は薄暗く、いまにも雨が降ってきそうな空模様だ。
「待てよ、ミゲル」
校門を出たところで追い付き、スーツの袖を掴んだら、バニラの香りがした。
ああ、いつもの彼の匂いだ。彼が好きなリトルシガーの__。
「ヴァシリーは何も悪くないんだ。おまえには頃合いを見て自分で連絡するから、戻ることは黙ってて欲しいって、俺が…」
「いや、俺の人選ミスだ。おまえが気を許してるヤツのほうがやりやすいだろうと思ってヴァシリーを付けたが、アイツはおまえに情を移しすぎた。腕は立つがボディーガードとしては失格だ。だいたい、昔から大事なことに限って俺に言うのが遅えんだよ、おまえは。イザークと付き合いだしたときといい、マイウスに逃げたときといい」
「……ボディーガード? 父のスパイの間違いじゃないか」
多少なりともすまない気持ちでいたのに、イザークの話を持ち出されると意固地になってしまう。
するとミゲルはサングラスを外し、目をすがめて俺を見た。
「おい、開き直んな。今は口ごたえできる立場じゃねーだろ」
「だから俺が悪いって最初から認めている。ヴァシリーをクビにしたら、2年前に父がおまえの父親に何をさせたか、大手メディアにリークするからな」
「……何でそうなんの」
「先に過去の話を持ち出したのはミゲルじゃないか。そんなに四六時中監視しなくたって大丈夫だよ。ペントハウスはセキュリティ万全だし、いつも大学の門までヴァシリーが車で送迎してくれる。俺だって今の生活を取り上げられたくないから、おまえに迷惑がかかるような真似はしない」
「迷惑とかじゃなくて、フツーに心配なんだよ。顔が見たくても、俺もそうそうマイウスまで行くわけにいかねぇしさ。戻ってきてるなら一言連絡が欲しかった」
言葉に詰まった俺の頬に、降りだした雨がぽとりと落ちてくる。ミゲルは手の甲でそれを拭った。すぐに離れるかと思った手が、俺の頭をポンと叩く。
「まぁ、元気そうでよかったよ」
昔から、ミゲルがこういう目をするたびに、俺は何も言えなくなる。
彼の後ろに常にちらつく父の影に、つい反発してしまう自分の大人げなさだとか、俺のどんな我が儘も結局許してくれるミゲルへの複雑な感情が、俺を前にも後ろにも進めなくさせる。
いっそ本当の兄弟だったらよかったのに、と何度思ったことか。
「……シーフードの店だっけ。俺もこの辺の地理にはあんまり詳しくないけど…」
わざと素っ気ない態度で歩きだしたとき、行く先に突っ立っている人物と目が合った。黒髪に色白の肌。
「__シン?」
「あ…」
シンは一瞬気まずい顔になり、こちらに来るのをためらっているようだった。
雨が本降りになってきたので、俺は小走りにシンに近づいた。
「バイトの帰りか?」
「……うん、まぁ。練習が無くなったから、ちょっと寄ってみたっつーか」
「ちょうど会いたいと思ってたんだ。これから何か食べに行くところなんだけど、シンもよかったら来ないか」
「え、でも」
シンは戸惑って、俺の後ろを遠慮がちに見る。
俺はというと、渡りに船といった心境だ。ミゲルの顔を見ると、どうしても2年前のことを考えてしまうし、部外者のシンがいてくれたほうが気が楽だ。
「今日はもう直帰することにしたから、ちょっと片付けてくるよ。そこのバス停で雨宿りしていてくれ。ミゲル、彼はシン・アスカ。俺の__」
俺の。
何だろう、『後輩』というのもおかしいし。
俺がもたもたと適当な言葉を探すあいだに、ミゲルは大人の貫禄を見せ、愛想よくシンに手を差し出した。
「どうも。ミゲル・アイマンです。うちの『若様』がいつもお世話になりまして」
「あっ、ハイ、その、こちらこそ…」
しどろもどろにシンが答える。人見知りしないヤツだと思っていたが、さすがに緊張しているらしい。
あとはミゲルがうまくやるだろうと判断して、俺はいったんラボへ引き返した。
目下、俺は初対面の人とふたりっきりで雨宿りという、奇妙なシチュエーションに立たされている。
(アスランってときどき強引…)
あれは天然で周りを振り回すタイプだ、絶対。
現にいま、俺を振り回している。ちっともメールの返事をくれないし、勇気を振り絞って会いに来たら、またしても違う男と一緒って。
しかも、今度の相手は年上で、アスランの頭を撫でたり(!)して、ずいぶんと親密な間柄みたいだ。
好奇心に負けて、ちらちらと隣を見やる。
(背、高ぇー)
真っ黒なスーツが似合いすぎる。先のとがった洒落た靴はピカピカに磨き抜かれ、高級そうな腕時計が袖口からさりげなく覗いていた。
どう見ても学生や教員じゃない。見た目は端正で礼儀正しいのに、凄く威圧感のある人だ。街を歩いたら、人々が自然と道を譲りそうな。
……アスランとどういう関係なんだろう。超気になる。
「えーと、シンだっけ。ここの学生じゃないよな」
ミゲルという人は砕けた口調で訊いてきた。「おまえ、アスランの何? どういう関係?」
こっちの台詞だと思いながら俺は答える。「別に、ただの知り合いですけど。たまたま、汽車で隣りに座っただけの」
「ふーん? ……音楽畑の人?」
彼は俺の背負ったベースのケースを見ていた。
「地元でアマチュアのロックバンドやってました。プロ目指して上京したんです」
「ああ、そういうこと」
彼は呆れたように独りごちた。「おまえも拾われたってわけね。……スティングたちを引き取った意味ねーじゃん」
「え」
「いや、こっちの話」
(……あれ、待てよ。これってチャンスじゃん)
今のうちに、この人からアスランのことを色々聴けるかもしれない。
どっちみち、それしか共通の話題が無いんだし。
「……アイマンさんも、ディセンベルの出身なんですよね?」
「ミゲルでいいよ。生まれも育ちもディセンベル。最近は仕事でずっとセントラルだけどな」
「もしかして、アスランの親戚とか」
「別にただの幼馴染。__あのさ、初対面でこんなことお願いして、非常に申し訳ないんだけど」
彼はすまなそうに言った。「今日の食事、1時間くらいしたとこで適当な理由作って帰ってもらっていいかな。アスランに大事な話があって来たんだ」
俺は快諾を渋った。
さっきアスランが一瞬見せた、縋るような目が心に引っ掛かる。
何となく、アスランはこの人とふたりになりたくなくて、俺を誘ったような気がするんだけど。
「……わかりました」
「悪いね」
(うう。……ごめん、アスラン)
だってこの人、目が笑ってないんだもん。
俺の本能が、逆らってはいけない相手だと言っている。
会話がそこで途切れてしまって、結局アスランのことを聴き出すことはできなかった。
***
「昨日、妹さんに追い出された?」
アスランは食事の手を留めて、俺の顔を見た。「じゃあ、どこで寝てるんだ?」
あれから、俺たち3人は大学の近くの地中海料理のレストランに入って、丸テーブルを囲んでいた。
「今はとりあえずヴィーノ……友達の会社の寮に泊めてもらってる」
俺はパエリアを混ぜながら答えた。ミゲルと交わした『密約』のせいで、何となくアスランと目を合わせづらい。「今日の昼間は物件探してたけど、この辺で安いとこはもう学生で埋まってるらしくて。明日はダウンタウンのほうも探してみる」
アスランは眉をひそめた。「ダウンタウンはやめておいたほうがいい。通りが一本違うだけで急激に治安が悪くなるぞ。海沿いの通りまで行けば、比較的明るくて住みやすいけど、家賃は大学エリアとそんなに変わらないんじゃないかな」
「そうなんだ」
アスランが詳しいのでちょっと驚いた。この人、こっちへ来てからほぼ大学と家の往復しかしてないクセに。「まぁ、俺も引っ越しのバイトで何度かあの辺に行ったけど、大丈夫だよ。俺、地元じゃ割と不良少年だったし、柄の悪い連中には慣れてるからさ」
「大都会の闇社会をノウェンベルみたいな地方都市と一緒にするな。バンドの練習とかバイトで帰宅はいつも深夜なんだろう? あの辺りは薬の売人も多いし強盗だって日常茶飯事だ。その高いベースを狙われて、怪我でもしたらどうするんだ」
「……それは嫌」
「な? 幾ら節約したいからって、それじゃ元も子もないじゃないか」
俺は下唇を突き出して見せる。アスランの忠告はもっともだったけど、実際問題、住所が無いと色々困るのだ。
「でも、いつまでも友達の寮に居候できないし、妹が『荷物が邪魔』ってうるさいし……あっ、そうだ」
マユで思い出して、急いでスマホを手に取った。「実はすっごいニュースがあって。"ソランジュ"のチケットが届いたんだけどさ」
「……"ソランジュ"?」
ミゲルがピクリと反応して、アスランを見る。
そうだよ、これを知らせたくて会いに来たのに、ミゲルの登場のせいですっかり忘れていた。
俺はダウンロードしたチケットを呼び出し、アスランによく見えるようにディスプレイを向けた。「何とセンター席で、整理番号2ケタ!! セントラル・ホールでこの数字って、ヤバいよな? 1階はオールスタンディングらしいし、余裕で最前列行けるよ、これ! そんな距離でYzakを見れたら俺、心臓止まるかも!」
アスランは凍りついたように画面を見ていて、しばらく何も言わなかった。